http://www.tamuken.jp/2012/03/29/pubrige/電子出版の立場からパブリッジについて考えるhttp://www.tamuken.jp/wp-includes/images/crystal/default.pngタムケンブログ
本日、出版デジタル機構(パブリッジ)の立ち上げ記者会見があったようです。
TwitterのTLを見ていると賛否両論あるようなのですが、あまり込み入った議論はまだ起きていないようなので
新興電子書店/電子出版系事業者としての立場から、パブリッジについての個人的な見解/推測をまとめてみようと思います。
(先に申し上げておくと、個人的にはこの取組は「そういう手があったか…」と比較的ポジティブに捉えてます)
情報源について
ちなみに、当社(モバキッズ)では、DRMフリーの電子書店「ブックパブ」の共同運営を行っている他、電子出版サイト「Synapse」を運営している事もあり、先日制作会社・電子書店向けの説明会に足を運んできました。そこで聞いた情報や、いままで電子出版をみてきた知見などを元に書きます。
ちなみに、これから1年間くらいの動きについては、補助金10億円が投下される「コンテンツ緊急電子化事業」のオペレーションが主になることと予想されますが。これに関しては資料がかなり一般公開されているようなので、このへん見ると色々わかると思います。
http://www.jpo.or.jp/electronic_books/index.html
現状の書籍電子化の問題点
そもそも日本において書籍の電子化が進んでいなかった理由はいくつかあります。以下、思いつく大きい問題を列挙します。
1:著者およびその他(挿絵や画像などの)権利者に対して、電子化に関する権利処理が出版契約の中にかつて入っていなかったので、権利処理でモメて旧作の一律電子化ができない。
2:DTPデータを出版社が保持していないケースが多く、その場合リフロー型コンテンツを作るときに紙版のスキャンから始めなければいけないので、電子化コストが高い。
3:電子書籍市場がまだ小さく、上記のようにコストも高いので、電子化コストを回収するまでに長い時間がかかる(ないしは回収できない)ことが予想される。
4:権利処理上、ないしは出版社の経営判断上、厳しいDRM(具体的には、閲覧用ビューアーソフトを限定し、電子書籍ファイル自体を読者が操作することを禁じる)をかけた状態でしか流通できないケースが多く、読者の満足度が低い。
5:フォーマットがまだ発展途上であり、現状では相互変換が難しいため、形式が乱立して統一が難しい。また、これが電子変換への投資をためらう要因のひとつになっている。
6:そもそも電子化によって紙書籍が売れなくなるのでは、という幻想があったりなかったりする。
7:(これは個人的な感想ですが…)紙書籍として売ることを前提に作ったコンテンツが、Webを通じて売れるコンテンツとは限らないため、コンテンツのミスマッチ頻度が高い可能性がある。
ああ、なんというか書いているだけで切なくなってきますねぇ…
Webの人っぽくざくっと考えてしまうと
・権利処理はできるところから頑張って、DTPは自前でやることにして、そこからオープンなフォーマット(EPUB)に変換して、EPUBのままで売ればいいじゃん!
などと思えてしまうわけですが、なかなかそうは行かないわけで(たぶん)
パブリッジの立ち位置
数年後の展望についてはよくわかりませんが、とりあえず今年は「コンテンツ緊急電子化事業」のスキームで色々進むものと思われるので、そこから推測していきます。
そもそも「コンテンツ緊急電子化事業」とは…というのはここが分かりやすいと思います。雑にまとめてしまうとこういうことかと。
・震災で東北大変だったし、製紙工場とかが被災して大変でした
・出版電子化はこれからの急務
・じゃあ補助金入れて大量に電子化することにして、その作業を東北でやる(体にしておく)ってことにすれば雇用生まれるし電子化進むし、ついでに東北の図書館に底本出すことにすればよくね?
・電子化費用は原則半分補助で、東北関係の本/出版社のは2/3補助しちゃう
・申請色々めんどうだから、申請の部分まるっと出版デジタル機構(パブリッジ)が代行するよ、自己負担分も立て替えちゃうよ、電子書籍の売上で相殺するよ
・基本的にはDTPデータからEPUBつくるけど、DTPデータないやつはスキャンして固定レイアウトEPUBにするよ
・できたデータはできるだけ沢山の電子書店で売るよ、でもDRM関係は電子書店に投げるよ
つまり、パブリッジの立ち位置は
・書籍の電子化における、変換代行の共通一次請けになる
・書籍の電子化における資金を実質的に貸し出す金融機関的立ち位置になる
というだけなんだと考えられます。
※もちろん実質的には巨大な電子取次になるわけで、Amazonの締め出しとかもでき得るわけですが、やらないって言っているのでなんとも言えないと思います。パブリッジ経由で電子化したら、電子書籍ファイルを出版社が取り回すことができない、って話も聞かないですし
特に陰謀論的に詮索しない限り、大手出版社がこれに乗るメリットも他にあまり感じられない(大手なら自前で全部やっちゃえば良い訳で)ですし、「大手の相乗り」というよりは、大手も出資して中小を保護することで、電子市場自体の拡大を目指す、ってストーリーと素直に捉えて良いのではないか、と自分は思います。
(まぁほんとのところはわかんないですけどねー)
面倒な点に一気に蓋をする上手さ
このスキーム、色々考えてみたのですが、先述の問題点のうち解決が面倒なところにキレイに蓋をしたスキームだな、と思っています。冒頭で「ポジティブに捉えている」と書いたのはその点。
問題点とそれへの対処(一部推測)と感想について、ひとつずつ見ていきたいと思います。(※コンテンツ緊急電子化事業についてなので、将来のパブリッジについてはよくわかりませんけど)
>1:権利処理が面倒な件
写真の権利が取れないところなどは個別対応する(ジャニーズとか)と説明会では言われていました。個別対応…
>2:DTPデータがない件
今回のスキームでは、DTPデータがない本は一部だけ手入力によるリフロー型変換をして、それ以外はスキャン画像を元にした固定レイアウトEPUBで済ませることになっているようです。
本来リフロー型にすべきコンテンツを固定レイアウトにして売れるとも思えないのですが、どっちにしろ売れない本かもと考えたら手抜きしてチャチャっと作って電子化点数のカサ増しに使うというのは合理的だと思います。
>3:コスト回収が大変な件
個別の出版社は1円も出さずとも、パブリッジが立て替えてくれるわけですから、特に問題にはならなくなります。パブリッジ自体の収支がどうなるかはあやしいですけど、それはもう、大手出版社の出資と産業革新機構の150億があれば、当分は大丈夫なのでしょう。
>4:DRMがきつい件
今回のスキームでも、DRMについては電子書店がやる、とだけ規定されています。PDFはDRMができないから不採用だそうです。
個人的には、個人情報を埋め込んで違法配布されたら通報されるようにすれば良いのでは(海外の出版社直営電子書店などを中心に採用されている方式で、ブックパブでも活用中)、と思いますが、それでは足りないという判断なのかもしれません。
これではやはり売れないのでは…とも思いますが、今回の目標は1年で6万点作ること、質より量、ということみたいで。確かに、電子書店の視点だと(質はともかく)量が多いと品揃えが多いようなイメージができて集客しやすくなったりしますし、悪くはないと思います。
そういえば、記者会見で「パブリッジでB2Cはやらない、電子書店同士で競争して欲しい」と明言されてましたね。
>5:フォーマット乱立の件
今回のスキームで作られる電子書籍は、販売用ファイルはEPUBかXMDFか.bookなのですが、それとは別に中間交換フォーマットにして納品されるので、形式は後で変えればOK、ということなっています。中間交換フォーマットとか超絶ややこしい…制作だるい…と思わずにはいられませんが、なにしろ実質パブリッジが独占一次請けですから、末端の制作会社が頑張ればよい話。独占って素晴らしいです。
>6:紙書籍が売れなくなりそうで怖い件
電子書籍に力が入らない理由として、取次や書店との関係悪化を危惧して電子化部隊が動きにくい…という要素もあるようですが、赤信号みんなで渡ればなんとやら。
というわけで、ややこしい事を後回しにしてゴリッと進めていきましょう、という考え方だと推測すると、すごく上手い仕組みだなぁと思っています。
健全な市場かどうかはあやしいですけど、その違和感さえ忘れてしまえば。
電子書籍がほんとうに売れるようになるために 〜電子出版アプローチ〜
しかし、これらの施策がなされて電子書籍の点数が増えたからといって、電子書籍の市場がどんどん大きくなっていくかというと、別問題だと思っています。
点数が増えるのは条件のひとつだと思いますが、「質的にも、フォーマット的にも、Web経由で売れるコンテンツを作る」という視点なしに、ただただ変換をしていけば自動的に売れまくる、とは考えにくいです。Webには書籍以外のコンテンツがたくさんありますからね。
その点を考えたときに、ただ「紙の書籍を変換する」のではなく、
・まず売るものを考えてから
・Webで売れそうならそれ向けに電子書籍を作って、それを組版し直して紙で売る
・そうじゃないなら、引き続き紙で売ることを考えて本をつくる
といった発想が必要になると思います。デジタルファースト、あるいは電子出版、と呼ばれる分野ですね。
そう考えると、「電子出版」と「有料Webコンテンツ」の行き着く先は一緒なのかもしれません。
その点も踏まえて、Webで良質で多彩なコンテンツがもっと販売されるように、電子書店の立場から、そして有料コンテンツ販売プラットフォームの立場から、できることは色々やっていきたいところです。パブリッジおよび周辺の取り組みについても、よりよくするお手伝いができればいいなぁと。Webの人として、ね。
※ご質問等ありましたらTwitter(@tamuken)またはコメント、メール(tamura@mobakids.jp)などでお気軽にどうぞ。